求められる教育機関のスマート化|木暮祐一のぶらり携帯散歩道

<図:スマートユニバーシティイメージ>スマートユニバーシティのイメージ

筆者もまさに教育業界の真っただ中で仕事をしているのですが、出版業界で様々な業界を取材し、そして情報通信業界なども渡り歩いてきた立場から見ると、教育業界は最もデジタル化から取り残された世界であると痛感します。
もう十年以上前に、世界の教育分野の情報化動向なども取材しておりましたが、世界ではWi-Fi等の通信インフラが教室に引き込まれているのは当然のことでしたし、デジタル教科書等の活用も始まっていました。
ところがわが国では未だに「スマホは電源を切ってカバンにしまっておけ」という高校がざらにありますし、学びにパソコンを活用できている学校が非常に少ないと感じます。文部科学省はGIGAスクール構想を打ち出し、「児童生徒1人1台コンピュータ」の実現を目指していますが、本当に教育業界が対応できるのでしょうか。

さて、そんな中で、大正大学ソフトバンクスマートユニバーシティの実現を目指した連携協定を締結したというニュースが飛び込んできました。大正大学の中期計画「MIGs(ミライ・イノベーション・ゴールズ)2026」の下、大学のデジタル化を推進し、ニューノーマル時代の新しい大学の創造を目指すとしています。

大正大学ではスマートユニバーシティ化を実現するための大正大学の組織「U-スマート化推進ラボラトリー(USL)」を通して、学内システムや教育・研究活動のデジタル化を推進するそうです。さらに、大正大学が注力する地域貢献を担う人材の育成を目指し、ソフトバンクのグループ会社との協力を行っていきます。両者は、大正大学の教育に関する知見と、ソフトバンクのテクノロジーを活用し、学生の学び方改革や教員の働き方改革、地域活性化などに貢献する、新しい教育モデルの実現を目指すとしています。

すでに一部実施しているものもありますが、具体的な連携協定の内容は次の通りです。

<1>デジタル化による教育・研究活動の最適化
・授業におけるオンラインの有効活用
・全ての授業(約1,300講義)の全面オンラインで実施(2020年4~6月実施済み)
・ゼミや授業でのビッグデータリソースの活用
・ヤフー株式会社が提供するビッグデータ検索ツール「DS.INSIGHT」を、ゼミや授業のデータリソースとして活用(2020年6月から活用開始)

<2>学生を対象にしたワンストップサービスの提供
・学内システムの統合認証と、スマートフォンアプリを活用した学生証のデジタル化を推進
・スマートフォンの内線化や電子決裁システムなどの活用により、教職員のテレワークを推進
・キャンパス内のインフラ構築の一環として、ネットワークの整備(2020年3月実施済み)やデジタルサイネージの導入と活用を推進

<3>入学前から卒業後も、生涯を通じた相互関係の構築
・ICT(情報通信技術)を活用し、入学前から在学中、卒業後も含めて、大学と学生が生涯を通して相互関係の構築ができるコミュニケーション・プラットフォームを提供

<4>地域との連携による新しい価値の創出と人材育成
・アントレプレナーシップ(起業家精神)教育や、地方自治体と連携するソフトバンクのグループ会社との協力により、新時代の地域戦略人材を育成
・また今後、教育・研究活動の支援などにAI(人工知能)など最先端テクノロジーを一層活用することを検討します。

スマートユニバーシティのイメージ
スマートユニバーシティのイメージ

筆者の勤める大学でも、コロナ禍においてオンライン講義を展開する必要があり、zoomを使った講義の配信などの試みはありましたが、正直なところそもそものインフラが情報化に十分に対応していないため、つぎはぎだらけのデジタル運用といった感じです。具体的には、例えば学生証をデジタル化したり、教室の設備をデジタル化したりなど、要所要所のデジタル化は進めているものの、結果的には従来と変わらない人的作業が必要になっています。大学内に一気通貫の情報システムの構築がなければ部分的なデジタル化のみではむしろ効率が悪いだけと感じます。

やはり教育分野のスマート化はデジタルトランスフォーメーションを得意とする情報技術分野の専門家がしっかり介入して全体の見直しをしてもらうべきでしょう。大正大学の取組みの成果に注目したいと思います。

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