MM総研によると、2014年度にわが国で出荷されたスマホは2,748万台となっているそうです。もはや1人1台以上行き渡っている携帯電話・スマホですから、新たに購入するというよりは、買い替え需要となっているはず。では、それまで使っていたスマホはどうされているのでしょうか。記念に保管しておくという方も少なくなさそうですが、一方で街中にはスマホ買取店が目立つようになっており、また通信キャリア自体も購入時の下取キャンペーン等を展開しています。
では、そうして買い取られたり下取されたスマホはどこに流れていくのでしょうか。中古スマホ販売店も増えてきましたが、むしろ買取店のほうが多そうな感じです。そんな疑問を持って業界関係者にあたって行ったところ、その多くは海外に流れているという事実を突き止めました。なお、このルポはオークネット総合研究所からニュースレターとして公表済みの内容ですが、あらためてこちらでも報告させていただきます。
香港を通じてアジア各地に流通していく中古スマホ
香港といえば、このPOSTCO Lab.で共に連載を書かれている山根康宏さんのテリトリーですし、香港を訪問した際には山根さんには常々お世話になっているところですが、今回は筆者独自にその流通ルートに当りまして様々な情報を得ることができましたので、私のほうからレポートさせていただきます。
本題に戻りますが、日本国内で買取られたり、下取されたスマホ端末はどこに流れていくのでしょうか。わが国ではこうした事実に当っていくことはどうもタブーなようで、なかなか真実が見えてきません。それではと、思い切って海の外から日本の中古スマホの流通ルートの解明に当ってみました。これまで色々なところから、香港に中古スマホが集積し、現地で業者オークションが開催され、それを通じてアジア中に中古スマホが流れていると一部報道で見かけたことがあったのですが、香港の業者オークションを手がけるK氏に接触することができ、その全貌が明らかになってきました。
K氏は香港を拠点に、日本、韓国、米国などにも支店を持つ中古スマホバイヤーです。すなわち、日本や韓国、米国などから中古スマホを買い付けてきて、これを香港でオークション形式にて買付業者に流す、そんなお仕事をされている方です。K氏の会社の社員数は約30名。そのうち、K氏のように世界を飛び回り、中古スマホの仕入を行う社員が約10名、その他の20名は香港の倉庫での在庫管理や中古スマホオークションの運営などをされているそうです。K氏の会社だけで月間十数万台の売買を行うそうで、仮に月間10万台を扱ったとして1台あたりおよそ3万円で取引されると考えれば、なんと月商30億円ぐらいのビジネスをしているということになります。さらにK氏から聞いた話では、同様なビジネスをする会社が有象無象にあるということで、正直なところアジア圏の中古スマホ市場がどれぐらいの規模があるのか想像すらできません。
その世界中古スマホ流通ルートですが、K氏によれば、基本的に先進国が流出元となり、そこから新興国、発展途上国へと流れているそうです。アジア太平洋地域でいえば、日本、韓国、米国が流出元で、買取業者や通信事業者の下取制度を通じて買い集められたものが一旦香港に集積します。そして香港ではK氏の会社のような買付業者向けの中古スマホオークションが多数存在し、このオークションを通じて買付業者の手により新興国や発展途上国に流れていくそうです。流通先は、インドネシア、ベトナム、タイ、フィリピンなどの東南アジア各国、深センを通じた中国本土各地、さらには中東のドバイを経由してアフリカ各地にまで流れていくそう。
なぜ香港が中古スマホ流通のハブとなるのかというと、香港は輸出入に関税がかからない仕組みのため、昔から貿易の中継地として君臨してきたというわけです。このほか、欧州には香港ルートとは異なる中古スマホ流通ルートが存在するといいます。中継地はオランダと言われており、いつかチャンスがあればそちら方面にも取材に行きたいところですね。
香港の業者向け中古スマホオークションに潜入
K氏のご好意で、K氏の会社の倉庫と、同社が毎週2~3回実施しているという買付業者向けの中古スマホオークションを見学させていただきました。じつはこの世界、基本的に買付業者関係者しか入ることはできず、ましてや日本人が取材目的で潜入するのは初めてのことのようです。そのオークション会場の場所や、開催日時も関係者以外知られていません。
まずは、倉庫内を見学。取材したのはちょうどiPhone 6s/6s Plusが発表される直前で中古スマホ流通量もそれほど多くない時期ということでしたが、倉庫内には多数のダンボールが山積みでした。おそらく端末数で言えば数万台は保管されているようです。時価総額にして10億円を超える資産がこの部屋に詰まっているわけで、警備もかなり厳重です。
そしていよいよオークションの開催です。オークション会場といっても、普段はガランとした何も無いフロアの奥に従業員用のデスクと金庫があるだけ。オークション開催時間にあわせ、隣接する倉庫から中古スマホが大量に詰められたダンボールが次々と運び込まれ、何も無かったフロアを埋め尽していきます。買付業者が端末の状態を確認しやすいよう、ダンボールは蓋が開けられた状態になっておりこれが床一面に並べられているような状態です。来社した買付業者のほうもプロですから、ダンボール内の端末を数個検品するだけで、そのダンボール内の端末のおよそのクオリティを見極められます。そして買付価格を提示し双方が納得した価格になったところで取引がまとまり、多額の現金が目の前で動いていきます。
取材させていただいた日は流通量が少ない時期であったため、入札形式はとらず、買付業者との個別交渉によって取引価格が決定するという流れでした。端末流通が多くなるど入札用の投票箱が引っ張り出されてきて、入札形式で売買取引が行われるそうです。
中古スマホにおいてもJAPANクオリティは健在
みなさんが使われていた中古スマホが、世界に流出して売買されているというと、端末内の個人情報とか大丈夫なのか? と焦ってしまいます。スマホには初期化の機能がありますが、フォーマットしたハードディスクからでも情報が抜き出せるように、スマホのメモリも同様に本気で解析すれば端末内情報を抜き出すことも不可能ではありません。
しかしK氏によると、日本や米国から流入してくる中古スマホは流通段階で専用の業者向けソフトウェアを使って完全にデータを消去し、過去のユーザーの個人情報が絶対に出てこないよう管理されているのだそうです。求めれば、端末1台1台のデータ消去証明書も取得できるということ。
さらに、日本の流通業社経由で仕入れ端末は、機種、カラー、グレード、さらに端末の傷や状態などの程度別にきちんと仕分けられた状態で仕入れられているそうです。こうした中古スマホの品質管理においては日本が他国に比べ抜きん出て厳格に管理されているそうで、これが世界の買付業者から日本からの出荷品が人気が高い要因にもなっているそうです。このセキュリティの面では一安心。そして日本人の作業の細かさは世界の中古スマホ流通業界でも高く評価されているのですね。こんな話、日本ではまったく聞いたことがなくただただ驚くばかりでした。
この取材内容に関するより詳細なレポートは、オークネット総合研究所からニュースレターとして発信しています。ご関心があればこちらもあわせてご一読ください。
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