欲しいものが来てくれる時代に向けて|木暮祐一のぶらり携帯散歩道

わが国では着々と少子高齢化が進行しています。かつての人口増加局面では経済も右肩上がりで成長し、世の中は「需要が供給に合わせる」時代でした。しかし、今後の人口減少局面では「供給が需要に合わせる」時代へと変化していきます。人口減少に対してデジタルを活用して効率化を図ると共に、供給が需要に柔軟に合わせていく仕組みが求められるということです。

いきなり難しい話ですが、たとえば交通で例えると、人口増加局面では「乗客がバス停で時刻表のバスを待つ」わけですが、人口減少局面の今後は「迎えの車が乗客の都合に合わせる」仕組みが求められていきます。買い物であれば「消費者が売っている店まで買いに行く」のが従来でしたが、今後は「商品が消費者の家に届けられる」ものになっていきます。

医療においてもこうした考え方のシフトが求められて行きます。かつては「患者が医療機関に通う」のが当たり前でしたが、今後は「医療サービスが自宅にやって来る」かもしれません。じつは、長野県伊那市ではすでにこうした「診療所がお家にやってくる」サービスを実用化しています。医療MaaSとも呼ばれるこの仕組みは、実証事業が始まった際にはこちらのコラムでもご紹介していました。[sitecard subtitle=関連記事 url=https://mobile-univ.com/archives/19903 target=]

ご紹介時点では実証事業でしたが、2021年4月からは本格運用に移行しています。
参考:長野県伊那市 モバイルクリニック事業

長野県伊那市の医療MaaS車両(ソフトバンクニュースより引用)
長野県伊那市の医療MaaS車両(ソフトバンクニュースより引用)
医療MaaSは診療所がお家にやってきてくれるサービス(ソフトバンクニュースより引用)
医療MaaSは診療所がお家にやってきてくれるサービス(ソフトバンクニュースより引用)

これは伊那市内の6つの医療機関がモバイルクリニック車両を共同運行し、通院が困難な患者さん宅へ出向き、同乗している看護師によって、オンライン診療の実施の支援を行います。車両には医師は乗っておらず、患者はこの車両に乗り、モニタ越しに病院で構えている医師の診断を受けることができます。伊那市で始まったこの医療MaaSはすでに各地へ拡がりも見せています。

同様な発想で、市役所がお近くに来てくれるという「お出かけ市役所」というサービスも始まっています。

福島県いわき市では、中山間地域等における行政サービスの利便性向上やスマートシティの推進を図ることを目的に、出張行政サービス「お出かけ市役所」の実現に向けた実証事業を10月から開始しています。
MONET Technologies株式会社と福島県タクシー協会いわき支部とが2020年11月に締結した「いわき版MaaS推進事業に関する連携協定」に基づいて実施されるもので、MONET Technologiesのマルチタスク車両を各地域に訪問させ、この車両内で住民票・税証明等発行、マイナンバーカード出張発行申請等のサービス提供を行います。

福島県いわき市で運行されるマルチタスク車両(いわき市ホームページより)
福島県いわき市で運行されるマルチタスク車両(いわき市ホームページより)

このマルチタスク車両は車内の装備品の入れ替えにより色々な用途で活用できます。5月に投稿したこちらのコラムでは、スマホ教室が中山間部などを巡回しているという話題をお伝えしておりました。[sitecard subtitle=関連記事 url=https://mobile-univ.com/archives/27433 target=]

こうした医療MaaS、行政MaaSの社会実装に向けた検証が進む中で、このほど三重県大台町にて医療MaaSと行政MaaSを組み合わせた実証事業が行われることになりました。
この実証事業ではマルチタスク車両を活用して、車両内で医療サービスと行政サービスを提供するほか、新たな取り組みとして公的施設の活用や薬剤の配送との連携による取り組みの有効性を検証します。具体的には、三重県大台町の報徳診療所および近隣の薬局の協力の下、町内の集会所などを巡回するマルチタスク車両を用いて、オンライン診療からオンライン服薬指導、さらには薬剤の配送に至るまで、医療に関する一連の流れを検証します。また、車両内ではマイナンバーカードの申請などの行政に関するオンライン手続きを行えるようにします。

三重県大台町で行われる実証事業のサービス概念図(MONET Technologies プレスリリース)
三重県大台町で行われる実証事業のサービス概念図(MONET Technologies プレスリリース)

実証事業は、MRT株式会社を代表幹事として、株式会社オリエンタルコンサルタンツ、MONET Technologies株式会社、大日本印刷株式会社、三重広域連携スーパーシティ推進協議会の5者が連携し、10月6日から開始し11月末まで実施されます。

将来的には、地域の中においても移動に使われる車両は医療MaaS車両、バス、タクシーがまちまちであり、これをマルチタスク車両に集約し効率化を図っていくことを目指し、実証事業において検証していくとしています。

将来めざす移動車両の最適化イメージ(MONET Technologies プレスリリース)
将来めざす移動車両の最適化イメージ(MONET Technologies プレスリリース)

こうしてマルチタスク車両が地域住民の社会基盤(インフラ)としての役割を担う存在になるよう、「医療・行政・交通」の視点で社会実装に向けた検証を行うことで、過疎化や高齢化などが進む地域の医療・交通関連の課題解決を目指すとしています。大いに期待したいところですね。

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