フォンブースのないコワーキングなんて…│木暮祐一のぶらり携帯散歩道

もともと筆者は通信環境とモバイルPCさえあればどこでも仕事ができてしまう、昨今の用語を使えば「テレワーカー」を長年にわたって実践してきました。携帯電話やPHSでデータ通信が可能になった頃からそういう働き方を楽しんできました。当初は「モバイラー」「モバイルワーカー」なんて言ってましたっけ。
1998年にはその手ほどきをまとめた『なるほど、かんたん!! 実践モバイル通信入門』を出版、2002年にはさらに海外でのモバイルワーク方法をまとめた『なるほど、かんたん!!実践モバイル通信 海外アクセス入門』といった入門書まで出版してました。

どこでも仕事するスタイルは徐々に広がり、のちに「ノマド」とも言われるようになりましたし、近年は東京の企業を地方へサテライト拠点誘致すべく自治体が動いたり、地方でのテレワークを組み合わせてバカンスを兼ねて働く「ワーケーション」なんて試みも定着してきました。

そんなこんなでテレワーク自体は別に目新しくもなかったと思いますが、新型コロナウイルス感染拡大を受けて在宅勤務やテレワークが推奨されるようになって、この1年ほどで一気に「当たり前」になった感じがします。これまでテレワークの体験が無かった人たちも、もはや実践せざるを得なくなったというところでしょうか。

地方創生テレワーク交付金?!

そうした中、このムーブメントを地方創生につなげようと、政府は令和2年度第3次補正予算と一体の「15カ月予算」として「地方創生テレワーク交付金」を予算化し、なんと100億円を計上して地方に交付しました。この「地方創生テレワーク交付金」は、自治体が行うサテライトオフィスやコワーキングスペース等の整備・開設等のプロジェクトに対し、国が総事業費の最大3/4を支援するものです。テレワークによる企業進出、滞在、移住推進を目的とした初めての交付金として注目されました。

内閣府:令和2年度補正予算(第3号)地方創生テレワーク交付金について ~ 地方への新しい人の流れの創出、魅力的な働く環境の創出に向けて ~
https://www.chisou.go.jp/sousei/about/mirai/pdf/teleworkkouhukin_gaiyou210510.pdf

そして募集に対して採択された地方自治体、計138団体にこの交付金が支出され、各地で様々な動きが出ているようです。

Facebookを流し読みしていたら、早速この交付金が原資であろう青森県のプロジェクトが流れてきました。
青森県ではテレワーク移住を促進するため、県外のIT関連企業やIT従事者等を対象にモニター調査を実施するとして、「青森県テレワーク体験モニター調査 2021」なる事業を行うのだそうです。
すでに募集は終了しているのですが、「青森県でのサテライトオフィス開設に関心がある企業にお勤めの方や、テレワークにより今の仕事をしたまま青森県に移住したいと考えている方」を対象に、青森県までの往復交通費と指定コワーキングスペース利用料を県が負担するという内容です。

Facebookで流れてきた青森県の施策
Facebookで流れてきた青森県の施策

今春まで8年間、青森市に在住していた立場として、東京から移住直後にまず不便を感じたことが、青森市内にシェアオフィスが無かったことでした。
筆者も2004年にサラリーマンを辞めた後、その後六本木や銀座でシェアオフィスやバーチャルオフィスを借りて大変重宝しました。シェアオフィス等は起業や副業を行う人たちにとって、とても重要なもの。しかし東京から青森に転居したら、青森には当時シェアオフィスなどなく、そうしたものを誘致、あるいは開業してほしいと各所に熱望したものの「必要性がわからない」など言われたものでした。
その後、ようやくシェアオフィスが進出してくると聞いて喜んだものの、最初に進出してきたのがリージャス(笑)。いやいや、もっと手軽に利用できるシェアオフィスが欲しかったんですがね(笑)。

でもその後は、コワーキングオフィスのブームに乗って、青森県内主要都市に地域の関係者がご尽力され、県も公認のコワーキングスペースが次々と生まれてきました。そうしたコワーキングから地元発ベンチャーが次々に誕生していってるのでしょう。これは良い傾向です。
前述の「青森県テレワーク体験モニター調査 2021」でも、これらコワーキングスペースの利用を推奨しています。

テレワークの作法は常に変化している

とはいえ、青森県内のコワーキングもそうなのですが、地方のこうしたテレワーク施設に疑問を感じる点があります。ここで創業し事業を発展させていくんだというスタートアップが使うのであれば、まあ許せるのですが、県外(=東京がターゲットなのでしょうが)の企業に勤める人に来てもらって、テレワークに使ってもらいたいというのであれば、コワーキングスペースの設計を大幅に見直す必要があると感じます。

まず、今やどの企業も情報セキュリティ上の観点から、PCの画面が他人から見える位置では仕事をしないはずです。背中側が壁になるなどの座席でなければPCを開くことを禁止されています。ところが少なくとも私が知っている青森市内のコワーキングはそういう座席配置が無いのです。したがって、オフィシャルな仕事はそれら施設では残念ながらできません。

筆者が現在籍を置いている企業は、各フロアにオープンスペースがあり、また執務室も基本はフリーアドレスで、どこで仕事をしてもよい環境となっています(基本は在宅勤務なので月に2~3日程度しか出社はしていませんが)。
あるいは、コワーキング大手のWeWorkも時々利用しているのですが、勤務先にしてもWoWorkにしても、今一番人気のある空間が「フォンブース」です。

とくにこの2年ほどはZoomなどを用いたビデオ会議がやたらと増えました。在宅勤務ながらも、下手をすると朝から夜までびっしりとビデオ会議をしていたりします。
今や、どこの企業でも当たり前にビデオ会議をする時代となりましたが、このビデオ会議にオフィスや出先のコワーキング(WeWork等)から参加する場合、会議の内容が外部に漏れないよう個室から参加するのが企業での鉄則となっています。たとえば社内であっても自席からビデオ会議に入るのではなく、ビデオ会議の際には機密を保てるフォンブースに移動してミーティングに参加します。
そんなわけで、会社に出社しても、WeWorkなどに行っても、フォンブース争奪合戦状態です(笑)

残念ながら、地方のコワーキングオフィスは、近年変化してきたこうした企業事情を知らないところがまだまだ多いのではないかと思います。筆者の籍を置く会社においても、こうした独立したブースの設置が無い外部オフィスの使用は当然禁止です。

フォンブース色々

フォンブースは、いわば設置型の個室空間です。そうした個室ユニットを販売する企業も増えているようです。需要が増えてきたら増設も簡単です。筆者の籍を置く会社も、出社するたびにフォンブースが増設されていたりします。

フォンブースは、外部からの音を防ぎ、また内部の会話が外に漏れない遮音性に優れていることが重要です。なので一人用の囲いを作ればよいというものではありません。
色々とフォンブースを調べていくと、オフィス同様にカスタマイズが可能で、椅子やソファー、テーブルなどを組み合わせられたり、1人用だけでなく複数人数用のものがあったり、バリエーションも多いようです。

一方で、フォンブースは家具のように簡単に導入できますが、消防法上は個室の扱いになる場合があり、ビルの階数や仕様によって、自動火災報知器、煙感知機などが必要になることもあるそうです。
フォンブースで検索すると色々出てきますね。

kolo コロ(関家具)
kolo コロ(関家具)

フォーンブース「Kolo(コロ)」|株式会社 関家具
https://www.sekikagu.co.jp/kolo/

 

オフィス家具大手のオカムラもラインアップ
オフィス家具大手のオカムラもラインアップ

Telecube|株式会社オカムラ
https://www.okamura.co.jp/product/others/telecube/

 

アイリスオーヤマはフォンブース以外にもプライベート空間を確保するためのアイテム多数
アイリスオーヤマはフォンブース以外にもプライベート空間を確保するためのアイテム多数

内装建材総合サイト|アイリスオーヤマ
https://www.irisohyama.co.jp/b2b/kensou/

 

コクヨのシリーズは空調を重視してるようです
コクヨのシリーズは空調を重視してるようです

WORK POD(ワークポッド)|コクヨファニチャー株式会社
https://www.kokuyo-furniture.co.jp/products/office/workpod/

ともあれ、社会事情によってワーク環境のトレンドは常に変化しています。東京の企業からテレワーク移住を検討したいという地方の自治体は、こうしたトレンドにもう少し敏感になられて、ニーズに合わせて施設をカスタマイズしていったほうが良いと感じます。

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