ながら充電はスマホのバッテリーに悪影響!|木暮祐一のぶらり携帯散歩道

iPhone買い替え理由は圧倒的にバッテリーが要因(粟津社長)

さる3月30日、中古スマホ流通大手の株式会社携帯市場と、電気通信大学横川慎二教授らがスマホバッテリーの劣化に関する産学連携プロジェクトに関して記者会見を行うというので、取材してまいりました。その共同研究の成果なのですが、すべてのスマホユーザーにとってとても重要なテーマを科学的に立証したものです。結論を先に一言で説明すると、充電しながらゲームをしたり、YouTubeを見たりといった“ながら充電”がバッテリーの寿命を縮めてしまうというものです。

アンケート調査から分かったバッテリー劣化を早める要因

この研究に取り組んだのは、中古スマホ流通を行う株式会社携帯市場と、製品やシステムの事故の事例分析、デバイスの寿命試験と寿命予測、市場信頼性・品質のデータ分析など行う、国立大学法人電気通信大学 i-パワードエネルギー・システム研究センター 横川慎二教授らです。

記者会見を行った、株式会社携帯市場 代表取締役 粟津浜一氏(左)、電気通信大学 横川慎二教授(左から2人目)、同研究室 浅野実氏(左から3人目)、同研究室 石垣陽特任准教授(右)
記者会見を行った、株式会社携帯市場 代表取締役 粟津浜一氏(左)、電気通信大学 横川慎二教授(左から2人目)、同研究室 浅野実氏(左から3人目)、同研究室 石垣陽特任准教授(右)

この研究では、iPhoneユーザーを対象に2020年9月および2020年1月の合計2回(iPhone利用者、各900人)に分けて、バッテリー劣化を招くと想定されるアンケート項目46項目からインターネット調査を行いました。このアンケート結果を一般化回帰分析他、機械学習やデータマイニングにより、ユーザーの利用傾向とバッテリーの劣化度合をモデリングしていきました。その結果が掲題のとおりで、スマホを充電のみ行うユーザーと、ゲームや動画視聴などをし“ながら充電”しているユーザーとで、バッテリー寿命で有意な差が出てきました。

使用日数と劣化量の関係を見ると、大きく3つのグループに分布が見られた
使用日数と劣化量の関係を見ると、大きく3つのグループに分布が見られた
ビッグデータ解析に用いる手法により関連するアンケート項目をグルーピング
ビッグデータ解析に用いる手法により関連するアンケート項目をグルーピング
解析の結果、利用傾向は大きく3つに分類された
解析の結果、利用傾向は大きく3つに分類された

世代別に見ても、高齢層に関しては動画を見る人の半数以上が、ゲームをする人の半分程度が“ながら充電”をしていることがわかりました。若年層に関しては、大半の人が動画・ゲームをしながら“ながら充電”をしている結果でした。さらに、コロナ禍によるテレワーク、また自粛要請などの背景からも、インターネットへの接続時間が増えたユーザーが多いと思われ、常時充電しているユーザーが全般的に増えたとも想定されます。

調査を行った電気通信大学の横川 慎二教授によれば「とくに若年層には、フル充電をしていないと不安といった強迫観念があるのかもしれない。またテレワークをするユーザーはWi-Fi接続してスマートフォンを使用している割合が高いという結果も得られた。オンライン会議のデバイスとしてスマートフォンを利用する傾向も増えていると想定され、オンライン会議で“ながら充電”するユーザーがさらに増えそうで、これらがバッテリーの劣化を招く原因のひとつとなりそう」とのこと。

では、なぜ“ながら充電”がバッテリーに悪影響を及ぼすのでしょうか。デバイスの寿命試験・寿命予測を専門とする横川教授らは、端末の発熱がバッテリー劣化の進行を加速させると結論付けています。ユーザー調査をもとに、実際に“ながら充電”をしながらゲームをした場合と、ゲームはしないで充電のみを行なった場合で温度差の比較を行ったところ、一定の程度時間を経過すると発熱が大きく変わる傾向が伺えました。その発熱による温度差は8.9度にもなり、この高温状態がバッテリーを劣化させ、端末へ悪影響を与えるとしています。

ながら充電すると、充電前と比べて8.9℃も端末温度が上昇し、これがバッテリー劣化を早めるという
ながら充電すると、充電前と比べて8.9℃も端末温度が上昇し、これがバッテリー劣化を早めるという

バッテリー劣化は経済損失にもつながる?!

リユースモバイル(中古スマホ端末)流通事業者の業界団体である一般社団法人リユースモバイル・ジャパン(略称:RMJ)の代表も務める株式会社携帯市場 代表取締役 粟津浜一氏は、この会見の中でiPhoneの買い替え理由についての調査結果にも触れました。それによると、iPhoneの新機種が発売されたから買い替えたというユーザーはわずか9%にとどまり、逆に買い替えの理由の46%を占めたのがバッテリーの持ちが悪くなったからという理由でした。

iPhone買い替え理由は圧倒的にバッテリーが要因(粟津社長)
iPhone買い替え理由は圧倒的にバッテリーが要因(粟津社長)

では、バッテリーの状態が悪くなった端末が適正な価格で買取・下取りされるのでしょうか。じつはバッテリーに膨らみが出てしまったような端末の場合、買取評価額は同端末でも10分の1以下になってしまうのだそうです。ですので、今使っている端末をいずれ買取や下取りに出すことを考えているユーザーは、バッテリーが劣化しないように、直ちに“ながら充電”の習慣を改めないといけません。

さらには、買取や下取りに出される端末というのはまだ市場で多くはなく、いまだにその大半は退蔵スマホといって使われずに保管されたままになっているそうです。その退蔵スマホの資産価値は総額1兆2,936億円(2017年、MM総研調べ)にもなるそうです。これに、中古端末を扱う携帯市場における2020年度の取扱い端末バッテリー劣化割合(フィーチャーフォン全体の7割、スマホ・タブレット2割)とバッテリー劣化による評価額下落率(平均10%)を掛け合わせると、バッテリー劣化による経済損失額は4,220億円相当と計算されました。

使われず(市場に出ず)眠っている携帯端末の市場価値は総額1兆2,936億円!
使われず(市場に出ず)眠っている携帯端末の市場価値は総額1兆2,936億円!
バッテリー劣化割合を考えれば4,220億円も価値が損失してしまう試算に!
バッテリー劣化割合を考えれば4,220億円も価値が損失してしまう試算に!

「4000億円規模といえば、新型コロナウイルス感染拡大で影響を受けた大企業支援のための政投銀行、政府・メガ銀銀行と共に出資する額と同程度であり、決して無視できない経済損失と言えます」(電気通信大学 大学院情報理工学研究科 情報学専攻 石垣陽特任准教授)。

みなさん、スマホのバッテリーは大切にしてあげましょう!

(※)バッテリー劣化の定義は、フィーチャーフォンの場合はフル充電できないもの、スマートフォンやタブレットは、iPhoneの場合は最大容量が80%以下のものをさす(一般社団法人リユースモバイル・ジャパンのレギュレーションに準ずる)。

プレスリリース:産学連携によるスマホバッテリー劣化研究プロジェクトが発表 バッテリー劣化による経済損失額は推定4,220億円相当
「電源の繋ぎっぱなしでゲーム・動画・会議」“ながら充電”が劣化を加速
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000003.000069167.html

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