走る遠隔医療診察室が実証実験開始|木暮祐一のぶらり携帯散歩道

公開された「ヘルスケアモビリティ」の車両

筆者が単なるケータイオタクから大学教員へ転身したのは、30歳過ぎてから入り直した大学院にて「ケータイ×医療」の研究に取り組み、2006年に遠隔医療アプリを開発できたことがきっかけとなりました。その当時開発したものは、病院に入院している患者さんの生体情報を、外部にいる医師の手元のケータイで確認できるというものでした。
しかしその後も、いつでも持ち歩いているケータイがいざというときに人々を助けるものにできないかという思いから、ケータイを医療分野に活用していく道が開けないものかと日々奮闘を続けてきました。しかしなかなか壁は高いです。
現在、世界ではスマホの画面から医師とチャットして診断してもらって、投薬で済むような症状であれば数時間後には薬が配送されてくるというような医療サービスも始まっています。しかし、日本はこうした医療分野での活用は極めて慎重です。

そうした中で、ちょっと違う視点から移動を伴うユニークな遠隔診療サービスの実証実験が長野県伊那市で始まりました。MONET Technologies株式会社と株式会社フィリップス・ジャパン、そして長野県伊那市は、医療×MaaSの実現を目指し、医療機器などを搭載した車両である「ヘルスケアモビリティ」のテスト運行を12月12日からスタートさせています。

すなわち、「走る遠隔医療診療室」というような車両を用意し、MONETの配車プラットフォームを通じてスマホアプリから配車(診療)予約を行うことで自宅に到着、この車両の中で診療を受けられるというものです。ただし、この車両には医師が乗車していないというのがポイントです。車両にはドライバーと看護師が乗車してやってきて、患者は車内の医療機器を使って病院にいる医師とビデオ通話を通じて診察を受けることができます。看護師が医師の指示に従って患者の検査や必要な処置を行うことを想定しています。MaaSにより効率的なルートで患者の自宅などを訪問することができます。

公開された「ヘルスケアモビリティ」の車両 公開された「ヘルスケアモビリティ」の車内

公開された「ヘルスケアモビリティ」の車両と車内

この「ヘルスケアモビリティ」は、主に下記の機能を搭載しているそうです。

(1)スケジュール予約
患者と医師が合意したオンライン診療のスケジュールに応じて、現地(患者の自宅など)に向かう看護師が、スマホアプリから配車の予約をすることができます。

(2)診察機能
心電図モニターや、血糖値測定器、血圧測定器、パルスオキシメーターおよびAEDなどの診察に必要な医療機器を車両に搭載しています。

(3)オンライン診療機能
ビデオ通話を通して、医師が患者の問診や看護師の補助による診察を行える他、医師から看護師へ指示を出すことができます。

(4)情報共有クラウドシステム※
医療従事者間の情報共有を目的に、車両内に設置されたパソコンで患者のカルテの閲覧や訪問記録の入力・管理を行うことができます。
※情報共有クラウドシステムは、株式会社インターネットイニシアティブ(IIJ)の「IIJ電子@連絡帳サービス」を利用。

実証期間は2019年12月12日~2020年3月31日となっており、この間に伊那市、MONETおよびフィリップスの関係者で、「ヘルスケアモビリティ」の最適な運用方法を検証するテスト運行を行います。
その後、運用や安全などの確認ができ次第、近隣の医療従事者や慢性疾患を持つ患者の方に協力していただき、実証を行っていくとしています。高齢化が進む地方の市町村では、車を運転できなかったり、交通機関が不十分なために移動が困難な高齢者が増えています。さらに、地方では医療施設や医療従事者の不足も問題となっており、この走る遠隔診療室がそれらの課題の解決につながるのではないかという期待が持たれています。

参考サイト
MONET Technologies株式会社「医療×MaaSを実現する車両「ヘルスケアモビリティ」が完成し、伊那市で12月から運行を開始」
https://www.monet-technologies.com/news/press/2019/20191126_01/

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