【モバイル業界、平成と新時代】平成の携帯電話サービス料金プラン変遷|木暮祐一のぶらり携帯散歩道

ショルダーホンと携帯電話

まもなく平成という時代が終わろうとしていますが、平成の30年間で最も世の中に大きな影響をもたらしたものは、やはり携帯電話ですよね。

1979年12月にスタートした自動車電話をベースに、持ち歩ける電話として登場したショルダーホンが初めてお目見えしたのが1985年(昭和60年)で、さらにハンディタイプのいわゆる携帯電話の登場は1987年(昭和62年)でした。
当時はNTT(のちNTTドコモ)が提供する1社独占のサービスでしたが、1988年(昭和63年)12月に日本移動通信(IDO、現在のau)が、1989年(平成元年)7月にセルラー電話(現在のau)がそれぞれ開業し、NTTグループとの市場競争が勃発することになります。まさに平成の時代に入ってから、携帯電話は急速な発展を遂げて、現在の便利で素晴らしいサービスへと進化していくわけです。

こうした平成の携帯電話史をハードウェアから語ることは多かったのですが、今回は「料金プランの変遷とそれに伴う販売施策の変化」という観点から、簡単にこの30年の歴史を振り返り、そして新時代のサービスを展望してみたいと思います。

端末はレンタルのみだった黎明期の料金プラン(平成元年~)

昭和から平成に時代が変わるタイミングのまさに携帯電話の黎明期、筆者はちょうど大学生でした。
初めて目にした自動車電話ショルダーホンに大きな感銘を受け、そしてこれは将来を大きく変えるツールになると実感し、そこから各社が提供する携帯電話サービスのリサーチに明け暮れました。
ぜひとも自身で契約して使いたかったサービスですが、じつはその当時は学生が気軽に契約して利用できるような庶民向けサービスではありませんでした。

1989年(平成元年)当時、東京で契約できた携帯電話サービスはNTT(NTT中央移動通信)が提供する自動車電話、ショルダーホン、携帯電話と、IDOが提供する自動車電話、ショルダーフォン(注:NTTグループと差別化し、IDOやセルラーは「フォン」という名称でした)、ハンディフォンの両社それぞれ3種類がラインアップされ、しかもレンタルのみで提供されていました。そう、その当時は現在のように携帯電話端末を自由に購入できるような仕組みはまだ整っておらず、通信会社と契約を結び、端末は毎月レンタル料を含めた基本使用料を支払って利用をするものでした。

ショルダーホンと携帯電話
ショルダーホンと携帯電話

その携帯電話の契約時の負担金と毎月の利用料ですが、1991年(平成3年)4月時点で、保証金10万円、新規加入料45,800円、付属品(充電器やバッテリー等)が4~5万円程度と、まず契約時に約20万円ほどの費用がかかり、毎月の基本使用料は17,000円、通話料は6.5秒10円が掛かりました(NTTの場合)。
とても大学生が気楽に契約できるようなものではありませんね。というか一般の家庭にはまだ無縁のもの、一部のビジネスでの利用でなければ縁もなさそうなサービスだったのです。

筆者は自動車電話、ショルダーホン以降の主要な端末を所持するコレクターとしても知られていますが、学生時代に「どうしても欲しいけど買えなかった悔しさ」の反動で、社会人になってから大人買いしてしまったわけです。社会人になった後もしばらく自動車電話、ショルダーホンのサービスは継承されていましたから、後から契約して端末の買い上げをすることで、今や貴重となったコレクションを手に入れることができたのです。

お買い上げ制度以降の料金プラン(平成6年~)

さて、この高価だった初期の携帯電話サービスの利用料金でしたが、大きなターニングポイントになったのが1994年(平成6年)4月でした。
当時、レンタルしか契約手段がなかった携帯電話サービスでしたが、1994年4月からは端末の売り切り制、いわゆる「お買い上げ制」をスタートさせました。現在、当たり前のように携帯電話やスマートフォンを店頭で購入している販売方法は、この時から始まりました。

さらにこの1994年4月から、国内で新たにデジタルホン(現在のソフトバンク)、ツーカー(のちKDDIに吸収され現在サービス終了)の新たな2グループの携帯電話サービスが参入してきます。東名阪エリアは1地域に4グループの携帯電話サービスが競争することになり、これをきっかけに携帯電話の利用料金は大きく引き下げられていき、同時に携帯電話が一般の多くの人たちに普及を果たしていくきっかけとなりました。

1994年4月から、携帯電話の料金体系も大きく変わりました。それまでは自動車電話、ショルダーホン、携帯電話という3区分で、月額利用料にレンタル料も含まれていた料金プランは、1994年4月からレンタル料を分けた料金体系に変更し、基本使用料は9,500円(NTTドコモ、アナログ、プランAの場合)と大幅に引き下げられました。

<図1>お買い上げ制導入前後の携帯電話基本使用料(NTTドコモ『NTTドコモ10年史』(2002年)より引用)
<図1>お買い上げ制導入前後の携帯電話基本使用料(NTTドコモ『NTTドコモ10年史』(2002年)より引用)
<図2>お買い上げ制のポスター(NTTドコモ『NTTドコモ10年史』(2002年)より引用)
<図2>お買い上げ制のポスター(NTTドコモ『NTTドコモ10年史』(2002年)より引用)

さらに、通話発信よりも受信のほうが主体で、なるべく安価に利用したいというユーザー向けの料金プラン「プランB」(NTTドコモのプラン名)も用意されました。これは基本使用料ががさらに安価(4~7千円程度)になる代わりに、従量制の通話料はプランAの1.5倍という設定になっていました(他の通信キャリアも名称は異なりましたが基本的に同様なプランを用意していました)。

この当時、携帯電話の基本機能といえば音声通話だけの第1世代(1G)で、加入者増に応じて基本使用料や、加入時に必要な手数料等の引き下げが順次行われていきましたが、音声通話主体のサービス時代はこんなシンプルな料金プランだったのです。
翌1995年にはPHSサービスがスタートし、PHSを事業とする3キャリアが参入を果たしますが、料金プランは同様なものでした。

パケット通信料という新たな収益源(平成11年~)

携帯電話サービスの料金施策の次なるターニングポイントは、1999年(平成11年)2月にスタートしたiモードでした。同年4月にはIDO/セルラー(現、au)もEZaccess/EZwebをスタートさせ、携帯電話上でインターネットサービスを利用する時代に突入します。この時から、従来の回線交換式の通信サービスに加え、パケット通信サービスの利用が一般化していきました。

同時に、携帯電話を利用するには、基本使用料、通話料に加え、新たに「パケット通信料」(データ通信料)の徴収が始まりました。加入者増に応じて年々基本使用料や通話料は引き下げられていきましたが、通信キャリアとしてはパケット通信によって音声通話以外の新たな収入源を得ることになりました。

iモード等のインターネットサービスは大ブームとなり、ユーザーが様々なコンテンツを利用し、パケット通信料の負担は年々大きくなっていきました。「パケ死」なんて流行語も生まれるほどでした。
そうした中で、2003年(平成15年)11月にはauがパケット定額サービスである「EZフラット」を提供、以後2004年末までに各通信キャリアがパケット定額制サービスを提供開始していきました。携帯電話そのものもこの頃にはすでに「電話機」から「情報通信機器」へとその役割を大きく変えていきました。

ところで、パケット定額制プラン契約者は増えていきましたが、当時の携帯電話サービスでパケットを上限まで使っているユーザーはじつはそれほど多くなかったようです。
次の図3をご覧ください。これは2010年にNTTドコモが公表した投資家向け資料から抜粋したものですが、NTTドコモの1ユーザー平均(ARPU=Average Revenue Per User)のパケット通信料は2010年度時点で2,550円に留まっています。一方で音声通話料は年々低減しており2010年度で2,560円、まさに音声通話料とパケット通信料が逆転するタイミングにあることが分かります。

<図3>NTTドコモ投資家向け資料より(2010年)
<図3>NTTドコモ投資家向け資料より(2010年)

当時の携帯電話端末はモデルチェンジするごとにカメラが高性能化していったり、動画サービスを始めたりと、いかに多くのユーザーにパケット通信を使ってもらうかという観点から様々な機能を追加していった時代。じつはパケット通信料を大幅に跳ね上げることになったのがスマートフォンでした。

2008年(平成20年)7月、わが国でiPhone 3Gが発売開始されました。スマートフォン時代の幕開けです。もちろんそれ以前からスマートフォンは存在しましたが、iPhoneによって一般のユーザーにもそれが普及する大きなきっかけとなりました。

従来の携帯電話よりも大きなディスプレイを備え、パソコン向けのWebサービスをそのまま手のひらで利用できるスマートフォンは、パケットの消費量も携帯電話とは比べ物にならないほど大きなものでした。

図4は、2008年第三四半期から2010年第二四半期までの大手3キャリアのARPUです。加入者数の増加に伴って料金引き下げなどが行われ、1ユーザー当たりの売上は年々減少していた中にあって、なんとソフトバンクだけは2008年第四四半期以降、V字回復していることが分かります。これこそiPhoneの成果でしょう。
そしてこのデータが2010年(平成22年)頃からNTTドコモ、auともに主力端末を携帯電話からスマートフォンへシフトさせていく契機となりました。同時にパケット定額の通信料もスマートフォン向けのものは月額4千円弱から6千円弱程度まで引き上げられていきましたので、さらに収益は増えていったことになります。

<図4>2008年3Q~2010年2Qの3キャリアARPU比較
<図4>2008年3Q~2010年2Qの3キャリアARPU比較

データ通信料が主役となる時代へ(平成26年~)

そしてスマートフォンがモバイルを通じたコミュニケーションのあり方を大きく変えました。音声通話が主体だった携帯電話でしたが、スマートフォンによってWebを通じたコミュニケーションへ、さらにSNSへと変化を遂げ、音声通話の利用は一段と減っていきました。

こうした変化にあわせ、各通信キャリアの料金プランが大きく変化したのが2014年(平成26年)6月でした。
NTTドコモが新料金プラン「カケホーダイ」の受付を開始し、それ以前の料金プランは同年8月末で受付終了に踏み切りました。カケホーダイ以前は基本使用料に加え従量制の音声通話料と、定額制のパケット通信料という組み合わせでしたが、この新しいプランでは基本使用料に制限なしの音声通話料が含まれたものになり、これに加えて必要に応じたデータ通信料を組み合わせるという、いわばパケット通信料を従量制に戻したような料金体系に代わっていきました。
他の通信キャリアもこれに追従します。利用が減り続ける音声通話に対して、スマートフォンの高性能化に伴ってデータ通信料は増える一方の中で、データ通信料を従量制にしていくことが収益につながるという時代に合わせたプランとなっていきました。なお、現在では音声通話を再び従量制に戻して、さらに安価な月額基本料を用意した料金プランも設定されています。

<表1>2014年の新料金プラン、3キャリア比較表
<表1>2014年の新料金プラン、3キャリア比較表

分離プラン義務化で世の中はどう変わるか?(平成31年~)

そして平成の次の時代となる2019年、話題になっているキーワードが「分離プラン」です。はたしてどんな料金プランに変わっていくのでしょうか。

ここで言われている「分離」とは、端末代金と通信料金を明確に分離していこうということです。
携帯電話サービス料金プランは、各時代において提供するサービスやユーザーの利用動向を見ながら、利用料の引き下げと同時に新たな収益源となるオプションの追加などを繰り返し、内容は大きく変化しつつもユーザーから一定の利用料を徴収できるように工夫が続けられてきました。

利用料自体は近年、高止まりを続けているような状態でしたが、一方でスマートフォンが高額化していくなかで、そのスマートフォン購入代金の値引きを毎月の利用料から値引くという販売の仕方が定着していました。一見、高価なスマートフォンがお得に購入できて大変ありがたいシステムのように見えましたが、そもそもそれだけ値引き可能な通信料金というのは適正なものなのか、ということが議論されるようになりました。
しかも、端末代金の値引き額は、機種によっても、あるいは契約形態(機種変更か、新規・MNP契約か)によっても異なり、その恩恵を受ける人と、むしろ高額な通信料金を払い続けるだけで恩恵を受けていない人もいることが問題視されるようになりました。

このほかにも、回線契約を条件とした端末代金の割引きでは、その条件として24カ月あるいはそれ以上の利用を前提とした回線契約の締結が求められ、解約のタイミングを誤ると高額の違約金の発生や、分割した端末代金の一括返済が求められるようになりました。これが解約を妨げ、いわゆる囲い込みにつながり競争を阻害させていると指摘され、国は有識者会議等を経て2018年(平成30年)11月に「モバイルサービス等の適正化に向けた緊急提言」を行い、今春には電気通信事業法の改正も行った上で、端末代金と通信料金を明確にする「分離プラン」の導入を義務化させることになりました。

<写真2>囲い込みを目的とした値引きは終焉を迎える
<写真2>囲い込みを目的とした値引きは終焉を迎える

具体的な分離プランの内容は今後各通信キャリアがリリースしていくことになります。国が示した「分離プラン」の定義としては、端末の購入を条件とした通信料金の割引の禁止、いわゆる「月々サポート」「毎月割」「月月割」といった名称で毎月の通信料金から割引かれる端末購入補助がNGとなります。さらにNTTドコモの「端末購入サポート」のような、通信契約の一定期間の継続利用を条件とした端末代金の割引を禁止します。

となると間違いなく端末価格は高騰しますが、それら端末購入補助に使われていた原資の分だけ基本使用料が安価になるのではと期待されています。端末購入時にユーザー自身がクレジット等を利用して自ら24回払いなどにすれば、通信料と合わせたトータルの出費コストは大きく変わらないだろうとされています。
何も変わらないではないかと言われそうですが、じつはユーザーにとっては通信キャリアに縛られなくなることで、端末もサービスも選択の幅は大きく広がる可能性があります。

スマートフォン端末に関しては、何も通信キャリアが用意している限られたラインアップに縛られる必要はなくなります。オンラインストアなどで販売されているSIMフリーのスマートフォンを利用してもいいでしょうし、新古品や中古品という新たな市場も拡大すると言われています。
さらに、SIMカードは大手通信キャリアにこだわることなく、MVNOを活用してさらにお得に利用するというユーザーも増えていくことでしょう。ようやく訪れるわが国のモバイル通信自由化によって端末や通信サービスを自由に選択できるようになれば、事業者同士の競争ももう一度加速して、私たちユーザーにさらなる恩恵を与えてくれることになるはずです。

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