さる11月中旬、東京都内で「IoTのスマートハウス、スマートシティへの展開 ~居住空間から地域社会に至る、IoTによる環境見守りの事例を探る~」という講演会が開催され、その内容を取材してきました。主催は一般社団法人ブロードバンド推進協議会(BBA)。こちらの連載では、3回に分けてその内容をレポートします。まず1回目は、ゴミ収集車によるデータ取得からスマートシティへのアプローチを探る、慶應義塾大学と神奈川県藤沢市の取り組みです。
環境モニタリングを目的にゴミ収集車でデータ収集
慶應義塾大学と神奈川県藤沢市は連携協定を結び、2013年1月から地域における環境モニタリングという目的でゴミ清掃車に環境センサーを取り付け、実証研究を行っています。この実証実験に携わられた慶應義塾大学大学院 政策・メディア研究科 特任講師・米澤拓郎氏が概要を説明してくださいました。
米澤氏によれば、スマートシティとは「都市状況を理解し、それによって市民の行動変化や行動変容を促進するもの」であると説明します。とくに重要なことは、収集したデータをオープンに活用していく仕組みづくりだそうです。米澤氏は米国サンフランシスコ市の事例を示しました。サンフランシスコは市内の渋滞が激しいことで知られていますが、これをIoTを使って緩和していこうという取り組みです。
街中が渋滞する原因は、駐車場を探す車が市内に滞留してしまうこと。駐車場を探そうとノロノロ走る車のせいで渋滞が発生してしまうのです。これはサンフランシスコに限らず他の都市でも同じ問題が多発しているはずです。これを解消するためにサンフランシスコ市では8,200カ所のパーキングスペースにセンサーを設置、さらに双方通信型のパーキングメーターを5,100カ所に設置ました。これらをスマートフォンで空き検索したり、予約(予約中の時間も駐車料金は発生する)もできるようにしました。またパーキングメーターにはダイナミックプライシング(空き状況によって駐車料金が変動すす仕組み)も導入。
注目したいのはそのビジネスモデルです。まずセンサー類は行政(自治体)が設置しました。そしてそのセンサー類から収集されるデータを活用するためのアプリケーションを民間企業等が自由に活用できるようAPIとライブラリを用意しました。企業はこのデータを使い、情報の可視化を行うアプリケーションをビジネスとして提供していきます。住民はこれらのサービスを有効に使うことで、駐車スポットの空き状況や駐車料金を瞬時に調べられるようになり、これによって市内の無駄な徘徊を解消できます。結果的に渋滞の解消につながっていくわけです。またパーキングメーターを設置する行政側としては、空いているパーキングメーターにも駐車車両を誘導でき、まだダイナミックプライシングと併せ、駐車料収益の増大につなげられました。センサー類の設置という最初のステップは行政が行うわけですが、その結果地域の企業にもビジネスチャンスを与え、さらに住民サービスとして良い成果となり、巡り巡って行政側の増収にもつながった好事例といえます。
米澤氏らは、こうしたケースが日本でも応用できないかと考えました。慶応義塾大学SFCは、立地する神奈川県藤沢市ともともと連携協定を結んでいました。サンフランシスコのように資金豊富な大都市であれば「IoTを都市にばらまく」というような手法でスマートシティの構築も可能でしょうが、もっと小さな都市でも適用可能な手法の模索が必要と感じたそうです。そこで発案されたアイデアが、ゴミ収集車にセンサーを取り付けるというものでした。
藤沢市では、収集日の朝に住居前の道路へゴミを置いておくと収集してもらえる、全戸収集を行っています。ということは、ゴミ収集車は人の住んでいる道路はすべて走行していることになります。そこでゴミ収集車にセンサーを取り付けることで、人が住んでいるすべてのエリアの様々な情報、たとえば気温や明るさ、騒音、花粉、PM2.5、ごみの量、カメラを通じた道路の状況(凸凹や白線のかすれなど)などを収集することができるようにしました。ただし、データの送信は、ゴミ収集車からサーバーへ1日に1度送信するような仕組みにしているので、時間的なデータは取れていません。とはいえ時間的な変化などは、その他の技術で補完する方法も考えられるでしょう。時間差で取得したデータから予測値を出すなどの工夫です。
IoTによるデータ収集源はセンサーだけではない
IoTというと、どうしてもセンサーなどのハードウェアがその役割を担うと思われがちです。スマートシティを実現するための情報源は、それ以外にも様々な方法が考えられます。たとえば、“人”も重要な情報源です。
たとえば、千葉市では「ちばレポ」というアプリを市民向けに無償提供し、このアプリを通じて街で見つけた「”こまった(>o<)”レポート」を市民から情報提供してもらう仕組みを整え、運用しています。市民がこのアプリを通じて報告する地域の課題はWebを通じて一般公開もされています(https://chibarepo.secure.force.com/)。ちばレポの場合、この2~3年間のトライアルで約3,000件の都市のデータを得られているそうです。
米澤氏らも、ちばレポを踏襲した藤沢市独自の課題収集用アプリを構築し、藤沢市職員による情報収集を開始しています。
では、このデータを大学などの研究機関でどのような解析ができるのでしょうか。例えば、落書きの地域性や同一作者かどうかといった分析も可能でしょう。「この落書きをするグループの活動範囲はこのあたりまでだ」というようなことが分かってくると思われます。これまで市職員の方々の経験値で潜在的に知られていたことが、データで実証できるわけです。このように街の課題とその関連性を見ていくと、これまで知ることができなかった地域特性も見えてくるでしょう。
スマートシティのプラットフォームを作りたい
スマートシティの実現に向け、IoT等でデータ収集していく上で必要な考え方が、オープンなデータ活用です。たとえばAという会社が取得したデータが、必ずしもAという会社だけが使うのではなく、他社が有効に使うケースも考えられます。あるいは産業を超えて利用価値が出てくるデータもあるはず。データの取得、流通、分析、活用という流れの中で、慶應義塾大学SFCと藤沢市の取り組みはデータプラットフォーム作りへと発展させて行くそうです。
米澤氏いわく、
「ゴミ収集車に搭載しているセンサーをはじめ、その他各所の物理的なセンサーのほか市職員や市民などから収集されるデータ、Webから得られるデータなどを合わせると500,000ほどのセンサー数(情報源)になり、1つのセンサーが同時に多数のデータを取得できるため、データ数としては5,000,000ほどのデータストリームになり、さらにそのデータ量は1日20GBにもなります。こうしたデータを共有するプラットフォームを作り、公開を始めています」
「こうしたスマートシティの取り組みは、大学と自治体など、1対1の関係で構築され推進されるケースが数多く見受けられます。そうしたものが同時並行で動いていたり、あるいはプロジェクト連携ができていなかったり、こちらで作られたデータが別のところで活用できなかったり、そうした残念なケースが多々あります。そこで相互に協力しやすい枠組みとしてコンソーシアムを形成し、自治体からはフィールドを提供してもらったり、企業側は技術を提供してもらったりして一緒にビジネスを考え、社会実装まで考えるというような地域を対象としたIoTによる情報収集とデータの活用、技術に関する共同研究と社会実装の推進というのを行いたく、コンソーシアムを立ち上げました。」
「今後期待される「IoTとスマートシティ」は、そこに住んでいる人たちがしっかりデータを収集してきて、それを周辺の自治体と共有して活用しなくてはならない、そういう分野だと考えています。そうすることによって日本全体の情報を使った新しい産業を構築していけるのではないかなと考えています。これまでの藤沢市との取り組みで、なんとなくできるのではないかというのが見えてきたところです」(米澤氏)
藤沢市から、さらに全国へ、こうした試行が広がっていくといいですね。