1月23日、ソフトバンクは国内で携帯電話やインターネット通信などを手がける4つの子会社、すなわちソフトバンクモバイル、ソフトバンクテレコム、ソフトバンクBB、ワイモバイルの4社を4月1日付で合併すると発表しました。あまりに突然の発表で筆者も驚いたところですが、この4社に勤められている関係者もこの話を知ったのは当日の10時だったそうで、まさに青天の霹靂! しかしこの合併については、その明確な目的まで公表されていません。さて、ソフトバンクはこのタイミングでなぜ通信4社を合併させるのでしょうか。筆者なりに勝手に想像を巡らせてみました。
4社合併の背景にあるものは?
今回公表された合併の詳細ですが、携帯事業を手がけるソフトバンクモバイル、固定電話などを手がけるソフトバンクテレコム、ブロードバンド事業を手がけるソフトバンクBB、そして旧イー・アクセスとウィルコムを合併させ発足したばかりのワイモバイルの4社で、存続会社はソフトバンクモバイルとし、他の3社が吸収合併されることになります。ただし、「ワイモバイル」のブランドは継続の予定。
この4社合併により、単純合算で売上高は3兆5千億円、従業員数は約1万7600人(昨年3月末)、そして携帯電話契約者数は約4,700万件(旧イー・アクセスやPHS等は毎月の加入者数の公表を取りやめていたので昨年9月末の契約者数で算出)という規模の通信事業者になります。これまで携帯電話契約者数ではKDDI(au)が国内2位の通信事業者として君臨してきましたが、これでKDDIを抜き、ソフトバンクモバイルが実質国内2位の通信事業者に浮上することになります。もしかしたら今回の発表を受けて、一番穏やかではないのがKDDIかもしれません。
ちなみに、モバイル(携帯電話)事業は、電波を通じて通信を行いますので、国から割当を受けられた周波数帯域幅の範囲で事業を展開することになります。この周波数帯域幅が多いほど多くのユーザーに、より高速な通信サービスを提供できます。また、周波数帯域が低いほど電波は遠くまで飛び、回り込みやすいという性質があります。数年前まで騒がれていた「プラチナバンド」問題。古くから携帯電話事業を展開してきたNTTドコモおよびKDDIは「800MHz帯」と呼ばれる帯域でサービスを展開してきました。ところが、その後参入した通信事業者は1.5GHz帯以上の高い周波数帯域しか割り当てられず、ソフトバンクモバイルはこれを不服として、長年に渡って所轄官庁等に申し入れを繰り返してきました。その結果、周波数再編でソフトバンクモバイルには900MHz帯、旧イー・アクセスには700MHz帯というプラチナバンド帯域が割り当てられ、この問題は解決しました。
またソフトバンクモバイルは、2012年10月、iPhone 5発表直後に突如イー・アクセスの買収を発表。じつはこのとき、iPhone 5が発表されたところでしたが、ようやくLTE方式に対応したiPhone 5の、国内LTE対応バンドは2GHzと1.7GHzのみ。同じiPhone 5を発売するKDDI(au)に対抗するために、すでに1.7GHzでLTEサービスの展開を始めていたイー・アクセスを吸収することで、ソフトバンクモバイルでiPhone 5を利用しようというユーザーのために、イー・アクセスの持つLTEネットワークの活用を目論んだのでした。当時のその経営判断の早さにも驚いたものでした。
2013年7月1日には、2010年より会社更生法に基づきソフトバンクにより経営再建の支援を受けてきたウィルコムが正式にソフトバンクの連結子会社となり、さらに2014年6月1日にウィルコムはイー・アクセスに吸収合併され、7月1日付けでワイモバイルに改称、サービスブランドとしても現在「ワイモバイル」で展開しています。
これまで、それぞれの通信事業者のブランドを維持しながらサービス展開してきた意図はどこにあったのでしょうか。それは、やはり新たな周波数帯域の獲得の際、グループの複数の会社から手を上げられるというメリットがあったからでしょう。じつはイー・アクセス買収も、イー・アクセスに700MHz帯の帯域が割り当てられた3カ月後に行われたことで、ソフトバンクは買収によって周波数帯域を拡大していると叩かれたことがありました。このため、イー・アクセス買収発表直後、出資比率を下げて連結子会社にはしないと方針を変更したりするなど、混乱があったようです。しかし昨夏、総務省が“周波数割り当ての際にはグループ会社は一体として見なす”という判断をしたことから、ソフトバンクとしてはもはやグループ通信各社を別々に維持しておくよりも、いっそのこと統合して地盤固めさせることのほうが重要と判断し、今回の合併に舵を切ったのでしょう。
ちなみに、より高速なデータ通信を実現させるには、複数の周波数帯域を束ねて通信を行う「キャリアアグリゲーション」という技術があり、すでにKDDI(au)、NTTドコモとも展開を始めています。じつはこれをソフトバンクで導入するには、異なるキャリア間でのキャリアアグリゲーションができないため、その前にグループ通信会社を“束ねる”ことも必要だったのでしょう。
参考まで、3キャリアがLTEで使用(または今後使用予定)の周波数帯域別割当表を作成してみました(図1)。こうしてみると、すでにソフトバンクグループがNTTドコモを抜いて、最も帯域幅を持っていることになります。ソフトバンクグループの中にあるワイヤレスシティプランニングは、旧ウィルコムが次世代PHS用に割り当てられた帯域でXGP方式の通信サービスを行ってきた会社で、ウィルコムの再建と共に別会社化され、現在TD-LTE互換のAXGP方式でサービス展開をしている会社です。ソフトバンクモバイルではこれを借り受ける形で、「ソフトバンク4G」として展開しており、ソフトバンクモバイル契約のiPhone 6ではこの周波数帯もそのまま利用できます。またこの表には含みませんが、ワイモバイルがPHSで使用している1.9GHz帯の帯域もソフトバンクグループが保持していることになります。
新社長は宮内謙氏
この4社を合併した新ソフトバンクモバイルの社長に就任されるのが、現ソフトバンクモバイル副社長の宮内謙氏。同社社長の孫正義氏は会長となります。これをどう読むか?
ブロードバンド事業を開始した頃から、孫正義氏は「携帯電話事業」を将来手がけることを熱望してきました。それが実現し、事業としてもすでに完成の域に達したことから、孫正義氏は次の一手に出ることにしたのでしょう。
携帯電話事業に関しては、すでに国内では契約者数も頭打ち状態。他の通信事業者から顧客を奪ってこなければ、自社の加入者数を増やせないという現状の中で、いわゆる「MNPキャッシュバック」などの奨励金を出してまで競争することに、すでに愛想を尽かしたのではないでしょうか。すでにこの分野は、安定した収益をもたらすにしても、引き続き大きく成長する分野とは言えません。
ソフトバンクが今後目指すものは、まだまだやり方によって成長が見込める米国市場などの海外事業や、ソフトバンクグループのネットワークを有効活用したIoT(Internet of Things)事業なのでしょう。Pepperも言ってみればIoT端末の一種といえます。こうした成長分野に経営資源を重点的に配分していき、新たな成長を見込んでいくものと思われます。