昨年あたりから、スマホを使った医療サービス(医師による遠隔診療など)が多数市場に登場してきました。医療行為は対面を原則とするという法律(医師法20条)があったため、医療の世界では通信を通じた遠隔診療は比較的消極的でした。ところが2015年8月に、この医師法20条の定めは現代において通信を通じた擬似対面を否定するものではないといった解釈を厚生労働省が通知したことから、事実上の遠隔診療の解禁とみなされ様々なベンダーが遠隔医療ツールを提供するようになりました。
代表的なものが、株式会社メドレーが提供するスマホ通院アプリ「CLINICS」。すでにアプリには全国の多数の医療機関が登録されており、最初の診療に関しては対面での受診が必要となりますが、その後の通院はオンラインでも可能と医師が判断した場合は、このアプリを通じて診療予約をし、ビデオ通話で医師の診察を受け、薬や処方箋は宅配で届けられるという仕組みになっています。
このCLINICSのように、これまで登場した遠隔診療サービスの多くは、対応した医療機関をポータル化させたようなアプリが大半で、医療機関はそれらアプリの仕様や条件にしたがって、アプリの中にある一医院としてリストに並ぶような形で医療サービスを提供するというものでした。一方で、医療機関自身が独自に自院のウェブサイト等を通じて遠隔診療を提供したいというケースも少なくないはずで、こうした医療機関向けに簡単に遠隔診療に対応できる機能を追加できるよう支援するソリューションが登場するようになりました。
たとえば、ビデオ通信を活用したサービスモデルの設計やコンサルティング、リアルタイム・コミュニケーションプラットフォームの開発等を手がけてきたスピンシェル株式会社は、医療機関向けに「LiveCallヘルスケア」という遠隔診療プラットフォームを提供中です。
これは、同社の強みである高品質ビデオ通話を軸にして、遠隔診療に付随する診療予約受付や決済、薬や処方箋などの配送などの機能をパッケージ化したもので、ある程度ICTリテラシーの高い医療機関であれば容易に自院で遠隔診療サービスの提供が開始できるものとなっています。
これまで医療機関が遠隔診療システムを導入しようと思っていても、実際に遠隔診療を提供するまでには、 セキュリティの高い専用のウェブサイトを構築し、遠隔診療を受診する患者向けにも診療内容の詳細や動作環境の案内を説明するなどの手間もかかり、準備から導入後に至るまで多くの時間やコストがかかっていましたが、こうした専門領域に特化したCMS的なサービスを利用することで、遠隔診療を初めて導入する医療機関でも、コストと手間をかけずにスピーディーに遠隔診療を患者に提供できるようになりました。
このように遠隔診療の導入を容易にするICTツールが多数登場し、通信を通じた診療の敷居がだいぶ下がってはきましたが、医療機関にとってはもう一つ大きな課題があります。
それは遠隔診療の場合は対面での診療と比べた場合、診療報酬が低額にとどまってしまうということ。現状の診療報酬が遠隔診療に対応したものになっていないため、遠隔診療で請求できる医療費の内容に制約が生じてしまうのです。これが医療機関が遠隔診療に消極的な理由の一つにもなっていました。
こうした事情を受けて、安倍晋三首相は4月14日の第7回未来投資会議において「対面診療とオンラインでの遠隔診療を組み合わせた新しい医療を次の診療報酬改定でしっかり評価する」と明言し、2018年度診療報酬改定時に見直しを行う意向があるという発言をしています。この診療報酬改定でプラス改定となった場合、いよいよ本格的に遠隔診療を導入する医療機関が増えるのではないかと言われています。