買取られたスマホはどこへ行く?(その2)|木暮祐一のぶらり携帯散歩道

 スマホの中には大切な個人情報がたくさん詰まっています。パソコンの世界で言えば消去したはずのハードディスクからデータが流出してしまうなんてトラブルも実際に起こっています。スマホもパソコンと同様、初期化だけでは不十分。では買取店で手放したスマホは大丈夫なのでしょうか。前回に引き続き、中古スマホ流通大手のゲオがどのような処置をしているかレポートします。

業務用ソフトウェアで端末内データ完全消去

 全国約1,300店もの店舗でスマホ買取および中古スマホ販売を行っているゲオ。もはや中古スマホ流通で国内最大手に君臨しています。そのゲオの店頭で買取られたスマホ端末が、どういった工程を経て中古スマホ商品として店頭にならぶのかをご紹介します。

 店頭で買取られた端末は全国に4カ所ある流通センターに送られます。流通センターにはスマホのデータ消去処理などを担う「加工センター」が設けられています。筆者はその加工センターのうち、愛知県岩倉市にある岩倉流通センター内の加工センターを訪問、その工程を取材させていただき、前回のコラムでは検品部門までの流れをご説明しました。検品部門をクリアしたスマホ端末は、いよいよデータ消去部門へ。

取材に応じてくださったゲオ岩倉流通センター
取材に応じてくださったゲオ岩倉流通センター。この中にスマホ整備専門の「加工センター」があります

 検品部門でランク付けや動作確認などが行われた端末は、データ消去部門に移されます。ここには業務用のデータ消去ソフトウェアが備えられており、スマホをPCに接続して一気にデータ消去処理を施します。スマホのメモリはパソコンのハードディスクと同様に、初期化を施して一見はデータが無いように見えても、データの痕跡が残っていることがあります。端末に備えられた「初期化」の機能は、例えば本に例えると目次に相当する部分を消しただけの状態です。目次が無いのできれいに見えても、中身(メモリ)まで参照していくと、データがすべて残っているということになります。こうした状態の端末が悪意のある人の手に渡ったら大変なことになりかねません。そこで活躍するのがデータ消去ソフトウェアです。

 データ消去ソフトウェアですが、ゲオでは国産メーカー製の携帯電話およびスマホ向けのものと、現在世界でメジャーに使われているフィンランドのBlancco Oy Ltd(以下、ブランコ)製のものを併用していました。それぞれ一長一短あるようですが、ゲオの場合は携帯電話端末の買取もそれなりにあるため、それらのデータ消去用には従来から使っていた国産データ消去ソフトウェアを活用、スマホについてはブランコを活用するという感じで使い分けていました。OSのアップデートなど、次々に進化していくスマホのソフトウェアに対し、きちんと対応できているのが世界的シェアのあるブランコのソフトウェアということなのでしょう。一方で、ブランコでは携帯電話のデータ消去はできません。以前は国産メーカーのデータ消去ソフトウェアも頑張っていたのですが、ソフトウェアのバージョンアップのコストを考えると、スマホへの対応には限界もあるのかと思います。

データ消去部門。こちらは携帯電話のデータ消去処理の様子
データ消去部門。こちらは携帯電話のデータ消去処理の様子
スマホはブランコ社製データ消去ソフトウェアを使用
スマホはブランコ社製データ消去ソフトウェアを使用

 では、こうしたデータ消去ソフトウェアはどうのようにして端末内のデータを消去するのでしょうか。端末に備えられている「初期化」の機能との違いは、メモリ内のデータまで完全に消すということになりますが、実際にはランダムな文字列を何度も上書きしていくことで端末内に残っていた前所有者のプライベートなデータを“読めなく”していく処理となっています。

 データ消去作業の行程までは、中古スマホ端末は厳重に管理された状態で取扱われてきました。しかし、データ消去ソフトウェアを使ったデータ消去の行程さえ終了すれば、その先の行程では他の取扱い商材と変わらない対応で済みます。それだけ、この「データ消去」の工程が重要だということなのです。大手の買取店では必ずこうしたデータ消去処理を施した上で再販されますので安心ということでしたが、ネットオークション等で個人売買で手放したり、素性の分からない買取店などで手放した場合は必ずしも安心とは言えなさそうです。

ブランコのデータ消去ソフトウェアは1台のPCで最大40台処理できる。
ブランコのデータ消去ソフトウェアは1台のPCで最大40台処理できる。データ消去時間は1台およそ20~40分
顧客サービスの一環としてアクティベーション作業も行う
顧客サービスの一環としてアクティベーション作業も行う

 ゲオでは、このデータ消去作業の次に、端末のアクティベートを行い、その後は清掃などを行う再出荷に向けた最終工程となります。アクティベートに関しては顧客サービスの一環として行っており、同時に販売店舗での手間をかけないようにとの工夫でもあります。

 ゲオで買取される端末の数については非公表とのことでしたが、この岩倉加工センターに入庫してくる端末のシェアでいうと、iOSが4割、Androidが4割、携帯電話が2割ということでした。ほぼわが国の市場シェアを踏襲した感じでしょうか。携帯電話は引き続き減り続け、同時にスマホの入出荷量が増加していくという傾向は続いていきます。

加工センターから再び店舗へ

 全店舗から、買取られたスマホは必ずこの加工センターへ送られてくる工程となっていましたが、加工センターで整備・処理された端末は再販に向け再び店舗へ配送されていきます。とはいえ、買取った店舗にそのまま戻るというわけではなさそうです。

 ゲオでは、在庫調整等は本社にある企画部門で一元管理しています。企画部門では、ゲオが抱える流通在庫と市場の流通傾向を見ながら商品の店舗別仕向け指示を行っているとのこと。じつはゲオは全国にある約1,300店のそのほとんどが直営店。だからこそ、こうした店舗を超えた大胆な在庫流通管理が可能になるのです。

 流通センターでは、本社からのこの指示によって商品を店舗ごとに仕分けし、箱詰めの上出荷します。先ほど工程をご紹介した中古スマホ商品の他、DVDやゲームソフトなど様々な商材が運び込まれ、各店舗に仕向けしていきます。

 この行先店舗別に商品を振り分けていく装置が「ソーター」です。1時間に5,000個の商品を仕分けられる処理能力を持っています。

1時間に5,000個の商品を発送先別に仕向けるソーター
1時間に5,000個の商品を発送先別に仕向けるソーター

 スタッフはソーターの上流で、コンベア上の定位置に置いていくだけ。その先でソーターはパッケージにある商品コード(バーコード)を読み取り、本社から送られてきたデータに従って商品を出荷先店舗別に自動的に振り分けていきます。

ソーターの上流で出荷商品をコンベアに載せます
ソーターの上流で出荷商品をコンベアに載せます
ソーターが流れてくる商品のバーコードを瞬時にチェック
ソーターが流れてくる商品のバーコードを瞬時にチェック
コンベアで流れてくる商品が行先別に次々に振り分けられていきます
コンベアで流れてくる商品が行先別に次々に振り分けられていきます

 仕分けされた商品は、それぞれの仕分け品ごとにスタッフが箱詰めし、それらが運送業者のトラックに積み込まれ、各店舗へと送られていきます。中古スマホといっても、きちんと検品や動作確認が行われ、また前所有者のデータも完全に消去されているので、安心して購入して活用できるということがよく理解できました。

※写真の一部はゲオ提供

※前回の記事
▼買取られたスマホはどこへ行く?(その1)
http://blog.postco.jp/archives/12591

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