デジタル社会で求められるAIの倫理|木暮祐一のぶらり携帯散歩道

このところChatGPTなど、AIを活用したチャットボットが大流行していますね。さっそくそれらを使ってエゴサーチしてみましたよ。
まずはChatGPTで自分について尋ねてみると…

「きぐれ」じゃないんだけどなぁ。
「きぐれ」じゃないんだけどなぁ。

なんだか勝手に人物像が創作されてますね。これは誰だ?!(笑) 漢字の読み方を間違えているようなので、フリガナを入れて再度尋ねてみましょう。

フリガナ入れてもあまり変わらず(笑)
フリガナ入れてもあまり変わらず(笑)

それでは、マイクロソフトのBingのAIにも尋ねてみました。こちらはそこそこの回答を示してきましたね。しかもちゃんと根拠となる出典のリンクも添えられています。しかもちゃんとこちらのモバイル総合大学校も参照先になっているではないですか!

Bingのほうはそれなりの回答を返してくれました。
Bingのほうはそれなりの回答を返してくれました。

こうしたチャットボットに限らず、このところあらゆるサービスにAIが応用され、便利に活用されています。デジタル化が進展していく社会においてAIとのお付き合いはもはや避けられません。ここでお示ししたチャットボットのように、AIが必ずしも正しい結果を出してくるとは限りません。ともすれば悪意のあるAIが開発される懸念さえ考えられます。

AIを含むデジタル製品やサービスを開発する際に、「倫理に反さず、人権に配慮できているだろうか?」「意図せずユーザーに不利益を被らせていないだろうか?」といったことを開発者がチェックできるツールをデンマークデザインセンター(以下、DDC)が開発し、使い方を公開しています。

デジタルの推進に関して世界最先端と言われているデンマークですが、DDCはデンマークの国立機関として、40年以上にわたってデザインとイノベーションに関する研究を行っている機関です。
じつはそのDDCのCEOであるクリスチャン・ベイソン氏が来日され、AI/デジタルの社会実装とそれを競争力に転換する秘訣を導出するというパネルディスカッションが開催されました。僭越ながら筆者もこのパネルディスカッションに登壇させていただきモデレータを務めさせていただきました。

DDCのCEO、クリスチャン・ベイソン氏(左から2番目)をお招きしてのパネルディスカッション。
DDCのCEO、クリスチャン・ベイソン氏(左から2番目)をお招きしてのパネルディスカッション。

このパネルディスカッションの中で、DDCがデンマークの企業8社と共同で開発した「Digital Ethics Compass」についてご紹介いただきました。AIを含むデジタル製品やサービスを提供開始する際、あるいはサービスの改修などを行った際に、そのサービスや製品が倫理的に問題がないかを自らチェックできるツールです。

Digital Ethics Compass」はDDCのウェブサイトに公開され、どなたでも無償で利用できるようになっています。

言ってみれば、サービスや製品について配慮すべきことを確認するチェックシートという感じのものなのですが、非常に使いやすく作られています。まず何よりデジタル製品は人間中心に設計されていなくてはなりません
この「Digital Ethics Compass」では中央には大前提となる「人間中心」を据え、その外縁に4つの基本原則、配慮すべきデジタル技術が書かれており、それらを念頭に置いた上で22個の問いかけに一つひとつ答えていくことでセルフチェックができる構成になっています。

Digital Ethics Compass
Digital Ethics Compass

4つの基本原則を日本語にしてみると、「ユーザーが操作されることを防ぐ」「ユーザーがテクノロジーを理解できる」「不平等を生むことを防ぐ」「ユーザーにコントロール権を与える」とあります。さらにその外周には3つの配慮すべきデジタル技術として「Automation(自動化)」、「Data(データ)」「Behavior Design(振る舞いのデザイン)」に分類されています。

特徴的なのは、「Behavior Design(振る舞いのデザイン)」です。たとえば「あなたのデザインはユーザーのネガティブな感情をもてあそんでいませんか?」「安直な仕掛で製品に中毒性を持たせようとしていませんか?」といった問いかけがあります。提供するサービスにおいて、短期的にユーザーを獲得するために企業が取り入れたくなってしまう行為として、実際に経験することも多いのではないでしょうか。しかし、長期的に持続可能なサービスに成長させていくには、ユーザーを尊重し、ユーザーの権利を守って行かなくてはならないということを、このDigital Ethics Compassは示しているのです。

企業がAIを含むデジタル関連のサービスや製品を開発する際に、その製品やサービスの倫理面でのチェックに役立つツールと言えます。このDigital Ethics Compassの日本での普及には、共創型アクションデザインファームである株式会社レアがDDCと協力して進めるとしています。またクリスチャン・ベイソン氏が登壇されたイベントを主催されたNECも、今後このDigital Ethics Compassの普及に協力していくとのこと。

プレジデント社から刊行されている『AIビジネス大全』(秋元一郎編著)では、このDigital Ethics Compassの22個の問いかけを日本語化して紹介しています。こちらもぜひご参考にされてください。

アマゾン:AIビジネス大全

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