360度動画を使った地域プロモーションのトライアル|木暮祐一のぶらり携帯散歩道

VRがいま改めて盛り上がりを見せています。360度のコンテンツを安価に制作しやすくなったことや、VRゴーグルの低価格化、360度コンテンツを配信するためのプラットフォームが整ってきたことなど、身近に活用しやすい条件が揃ったことが大きそうです。

VRというとゲームのイメージが強かったものですが、たとえばビジネスの場でビデオ会議に活用するとか、あるいは教育分野、物販分野などの活用にも期待が持てそうです。そして筆者は地域振興にICTを活用する取り組みを行っていますが、この分野でもVRは期待されています。すなわち、地域の魅力を360度動画を使って紹介するコンテンツ制作を筆者の研究室に所属する学生と取り組んできました。

フィールドワーク先として青森県南津軽郡にある大鰐町と連携して取り組み、その地域の魅力を360度動画を使っていかに発信するかを考えてきました。まだまだ未熟なコンテンツではありますが、8本の動画コンテンツを用意し、これをVRゴーグルを使って視聴していただこうと、大鰐町にある大鰐温泉観光案内所と、東京・飯田橋にある青森県東京観光案内所に設置させていただき、6月30日から一般公開を始めたところです。360度動画コンテンツの視聴手段としては、同日NTTドコモがサービスインさせた法人向けソリューション「みんなのVR」を活用させていただきました。それら概要をご紹介しましょう。

これまでの撮影とは異なるノウハウが求められる収録の実際

360度カメラ(SAMUSNG Gear360を使用)を使い、大鰐町の見どころを収録しました。360度カメラによる動画の収録にあたっては、従来のビデオカメラとは撮影手技も大きく異なってきます。なにより、撮影者も映像に映り込んでしまいますので、遠隔でカメラを操作したり、録画開始とともに撮影者がカメラの死角に隠れるなどの工夫をしなくてはなりません。また、手持ち撮影も試みましたが、撮影した映像をVRゴーグルで視聴すると揺れる映像に酔ってしまいます。映像が揺れないように工夫することにも試行を重ねました。ドローンに360度カメラをぶら下げて空撮も試みました。これもカメラが揺れないよう、何度も撮り直しを重ねました(それでも揺れがないわけではありません)。

サービスイン時に用意できた8つの動画は、大鰐町町内にあるスキー場(ジャンプ台)空撮映像、町中に点在する足湯の紹介、大鰐駅から弘前中央駅までを結ぶ弘南鉄道大鰐線の運転席からの映像などです。弘南鉄道はあらかじめ鉄道会社の撮影許諾を得て、運転席中央にカメラを固定させていただき収録しました。ドローンの空撮にあたっても、町役場へ飛行に関わる申請を出し、許諾を受けて実施しています。

地域の私鉄、弘南鉄道大鰐線は運転席からの風景を収録
地域の私鉄、弘南鉄道大鰐線は運転席からの風景を収録

想像をはるかに超えた360度動画編集作業の苦労

収録した360度動画はそのままでは視聴ができず、専用のソフトウェアで編集する必要があります(視聴アプリによっては再生が可能なものもあります)。
SAMSUNG Gear360のユーザー向けには「Gear360 Action Director」というソフトウェアが無償提供されており、これを使って動画を読み込み、キャプションや効果を加えるなどの編集を加え、VRゴーグルで視聴できる形式でデータの書き出しを行います。

実は、この作業が驚くほど時間を費やすことになりました。360度動画となると、ファイルのデータ容量が想像以上に大きなものになってしまいます。2分程度の動画でもファイル容量が1GBを超えます。筆者らはこの部分をやや甘く見ておりました。サービスインを6月30日と決めて準備をしてきましたが、この動画編集に想像以上の時間がかかってしまい、ローンチ直前にはかなり焦りもありました。

動画編集ではデータ容量の大きさから想像以上の苦労も
動画編集ではデータ容量の大きさから想像以上の苦労も

視聴手段としてNTTドコモの「みんなのVR」を活用

VRゴーグルを使って360度動画を初めて視聴した時の臨場感、没入感に対する驚きはとても新鮮なものです。とある映像関係の専門家は、VRはカラーテレビ登場に次ぐ映像革命であるということをおっしゃっていましたが、本当に百聞は一見にしかずです。ですので、ぜひとも多くの方にこの360度動画をVRゴーグルで視聴するという体験をしていただきたく、その方法を考えてきました。じつはVRゴーグルで自分以外の方に映像を視聴してもらうといのは結構難易度が高いものです。高価なVRゴーグルほど多機能で、たとえば頭から外すと映像がストップし、再び視聴するためには操作が必要だったりします。操作手順もVRゴーグルを装着した状態で理解しなくてはならず、しかもVRゴーグルを装着している方の眼前にどのような画面が広がっているのかが操作を教える側には見えていません。

こうした、側からVR視聴をおすすめしたいのに簡単ではないというもどかしさを解決する画期的なソリューションが出てきました。これがNTTドコモが法人向けに提供を開始したソリューション「みんなのVR」です。これはVRゴーグルにセットされたスマートフォンやタブレットがWiFi経由で接続され、タブレット操作によってVRゴーグルに投影される映像を選択したり、再生・停止などの操作が行える、まさに”痒いところに手が届く”ようなサービスです。またVRゴーグルで360度動画を視聴している方の映像がそのままタブレットにも表示されますので、いまどの方向を視聴しているかを確認することもできます。

一般視聴に使うためNTTドコモの「みんなのVR」を活用(NTTドコモの説明図)
一般視聴に使うためNTTドコモの「みんなのVR」を活用(NTTドコモの説明図)

今回、このNTTドコモの「みんなのVR」提供にあたって、導入第一弾サービスとして開始できるよう、NTTドコモと協力関係を築きながら準備を進めてきました。
設置場所として選んだのは、大鰐町地域交流センター「鰐come」内にある大鰐温泉観光案内所と、東京・飯田橋の青森県会館1F「あおもり北彩館」東京店内にある青森県東京観光案内所です。これらの場所にいらした方が気軽に360度動画による大鰐町の見どころを観賞いただける体験コーナーを設置しました。設置期間は大鰐町の方の設置は12月31日まで、東京の方は7月31日までの予定です。

「みんなのVR」は編集済みの360度動画を、専用CMSを使っていったんNTTドコモのサーバーにアップロードし、そのデータをサービス提供用に用意したスマートフォンやタブレットにダウンロードしてセッティングします。360度動画映像自体は端末にそれぞれインストールされていますので、視聴時に通信ネットワークを使うことはありませんが、データのアップロードやダウンロードにはやはりそれなりの時間がかかるようです。

今後の展開

今回、大鰐温泉観光案内所と青森県東京観光案内所に360度動画コンテンツを設置させていただいた理由は、そのコンテンツ視聴をきっかけに観光客が大鰐町町内に足を運んでくださるきっかけにできるかどうかの検証です。大鰐町の場合、設置場所となる「鰐come」は町の中心的な日帰り温泉施設となっていて、周囲の地域から温泉を目的に多くの方が足を運ばれますが、それらのお客様は鰐comeだけに立ち寄られてお帰りになってしまいます。
そこで、町の見どころをしっていただき、せっかくなので町中まで足を伸ばしていただけるきっかけを提供できるかどうかです。

東京の青森県東京観光案内所に設置した360度動画の方も同様に、東京から大鰐町へ足を運んでいただくきっかけになることを期待しています。
できたら東京に設置するVRゴーグルの方は大鰐町に設置するものとは異なるコンテンツの提供も検討していますが、現状は同じ内容のものが仕込まれています。

青森県は大鰐町に限らず、四季を通じて観光が楽しめます。東京での体験コーナーは7月末までとなりますが、大鰐町での設置は年末まで継続しますので、今後は季節ごとの魅力を伝えられるようなコンテンツを追加していく計画です。また、インターネットサイト『湯のまち大鰐物語』でもコンテンツの視聴を可能にします。VRゴーグルをお持ちの方はぜひこのサイトを通じて大鰐町の360度動画をお楽しみください。

大鰐町の情報発信を行う「湯のまち大鰐物語」にて360度動画コンテンツも配信予定
大鰐町の情報発信を行う「湯のまち大鰐物語」にて360度動画コンテンツも配信予定

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