デジタルトランスフォーメーション(DX)というキーワードが飛び交っていますが、とはいえ筆者から見るとデジタライゼーション止まり、下手すればそこまでも行ってなくてデジタイゼーション止まりじゃないの?と思うようなデジタル化事例がたくさんあります。
デジタルトランスフォーメーションは「デジタルによる変革」という意味ですから、抜本的にやり方や仕組みまで変わらなければDXとは言えません。わが国は早い時期から色々とインフラが整ってしまっているので、日常生活でそれほど不便を感じないために変革まで意識をせず、ブームに乗って「デジタル化してみました」というところで留まってしまうのでしょう。
いっぽうで、中国はDXの先進事例がたくさんあります。たとえば、筆者がよくネタに使うのは、中国のQR決済サービス「WeChat Pay」のプロモーションビデオです。日本語字幕が付けられたものがYouTubeにもアップロードされています。一度ご覧になってください。ちなみにこの映像が公開されたのは2014年ではないかと思われます。中国では2014年時点でこんなスマホ決済アプリの活用が実現できていたというものです。
わが国では世界に先駆けておサイフケータイが2004年からスタートし、ケータイで決済したり、ケータイにクーポンを入れたりというような使い方が早くから定着していました。ですので、この映像を見ていて「そんなのは日本でもとっくの昔からあるよ」というシーンも出てきます。しかし、一方で日本ではその当時実現していなかったサービスもたくさん出てきます。
WeChat Payの映像では様々な活用シーンが出てきますが、たとえば2分15秒あたりからの通院のシーンなどは、中国では2014年時点で通院予約から診察後の電子処方箋を通じた調剤役の受け取りまでスマホで完結しています。日本でようやく電子処方箋が利用できるようになったのは今年1月のことです。健康保険証のマイナンバー連携はしたもののまだ活用事例は多くないようですし、マイナンバーカード機能のスマホへの実装もこれからです。
DXという観点から見ると、デジタル化によってこれまで常識だったやり方や行動が変革されて効率化が図られなくてはなりません。WeChat Payの映像の中でDX観点から筆者を唸らせたのは、たとえば3分23秒あたりからの旅行者がスマホで宿泊するホテルを予約し、そのホテルをチェックアウトまでするシーンです。
ホテルの部屋の鍵がカードキーになっているホテルは山ほどありますが、せっかく電子化しているのであれば、オンラインで電子キーの受け渡しは可能なはずです。しかし、わが国ではチェックインは必ずフロントで手続きをするというルーチンがなかなかやめられません。もちろん防犯上の目的もあるのでしょうが、ホテル内各所に防犯カメラも設置されているので、実際の管理上はフロントを通さないでチェックイン、チェックアウトも不可能ではないはずです。
なんてことを考えていたら、わが国の鍵・錠前の大手メーカー、美和ロックから「ホテル向けルームキー配信サービス」がリリースされました。まさに、中国WeChat Payのプロモーション映像に出てくるシーンを国内で実現させるソリューションです。
美和ロックとTISの業務提携によるサービスで、TISの持つ決済事業で培った技術をベースに美和ロックの鍵認証技術を組み込んだセキュアな鍵配信システムをコラボで実現させたようです。
ユーザーのスマホに宿泊期間のみ利用可能なルームキーを配信し、チェックイン/チェックアウト時におけるフロントでの物理的な鍵の受け渡しや管理が不要になり、フロント業務の省力化に寄与するというものです。そうです、これがDXによる業務改革なのです。
まだリリースされたばかりでしょうから、実際の導入事例はこれからなのでしょうが、DXはこれまで常識だった行為や行動が大きく変わるようなきっかけになるべきです。しかも、利用するユーザー側もサービスを提供する側も、共に効率化が図られWin-Winな形で実現させなければなりません。そういう点で、このホテル業界向けソリューションはDXらしい分かりやすい事例と言えるのではないでしょうか。