政府からの値下げ要請を受けて、ドコモ、ソフトバンク、auがデータ通信容量20GB、音声通話5分かけ放題で2,980円という新プラン(auは5分かけ放題オプションを付けて2,980円)を打ち出してきました。社会的なインパクトは大きかったようで、各社がこの新料金プランを大きく報じたのは皆様もご存じの通りでしょう。
確かに従来の料金プランに比べればシンプルで分かりやすく、またデータ通信容量も余裕があって魅力的に感じた方も多かったのでしょう。しかし、筆者はもう少し冷静にこれらプランを見ておりました。とてもお得そうに見えながらも、じつは見事に計算されつくして設定されたプランだなと感じたからです。
通信各社の1契約あたりの平均売上を示すARPU(Average Revenue Per User)という指標があります。各社ともIR資料でこのARPUも公表しているのですが、かつて’90年代~’00年代前半までは急速な加入者増を受けて年々ARPUが引き下がって来ていました。その後横ばいが続いていたと思ったら、2010年以降は端末のスマホシフトによって各社ともARPUが上昇傾向に転じていました。
たとえば、NTTドコモの場合2014年は4,100円/月で、2018年度は4,800円/月まで上昇しています。ちなみに2017年まではその内訳として音声ARPU(音声通話料)とデータARPU(データ通信量)と内訳が明示されていました。これを見ると、スマホが主流になった後も、データ通信ARPUは3,000円程度に留まっており、音声通話料に至っては1契約者平均1,300円程度であることが分かります。
つまり、3キャリアが打ち出した「データ通信容量20GB、音声通話5分かけ放題で2,980円」という料金設計は、少なくとも定額で確実に2,980円のARPUは達成でき、これに加え規定を超えたデータ通信を利用する場合や、1回5分を超える音声通話の利用の場合には追加の通信料が徴収されますので、おそらく現行のARPUを大きく下回ることはないだろうと設計されているのだろうと見ています。
実際に、ヘビーユーザーにとっては20GBでは収まらないと思います。しかも各キャリアとも5Gサービスへの移行を促していますので、ユーザーが5Gサービスの利用にシフトしていけば、より高速大容量な通信を日常的に利用することで、あっという間に20GB以上のデータ通信容量を求めるようになるはずです。音声通話にしても、「5分までなら何度かけても無料だから」とは言っても、実際には案外5分以上通話してしまったりするんですよ。そうして無料分を超える通話料金が課金されて、結局のところ毎月の通信料は何だかんだで2,980円を超えてしまうのだろうと思います。
ヘビーユーザーという話をしましたが、じつは大半の契約者はライトユーザーなはずです。データ通信容量を気にして使われている方は、おそらく毎月5~10GBもあれば日常的なスマホ利用に支障がないのではないでしょうか。じつはこうしたライトユーザーはMVNOのSIMに乗り換えることで、よりお得に利用できるのです。分かっているユーザーはすでにMVNOに移行しているでしょう。しかし、まだ多くのライトユーザーは3キャリアのライトユーザープランのまま使用しているはずです。じつは今回の3キャリアの新料金プランはオンライン契約を前提としているのですが、オンライン契約を気にされないユーザーはすでにMVNOへ移行しているのではと思います。オンライン手続きが必須でMVNOに移行するのと同じ手間がかかるという点で、3キャリアの新料金プランは既存ライトユーザーもそれほど移行しないと思われます。
つまり政府の要請に応じる形で一見はものすごくお得感があるようなプランを大々的に打ち出したものの、これらプランにはそれほど多くのユーザーは移行しないだろうという前提で、見事に設計したのかなと見ています。仮に新料金プランにユーザーが移行したとしてもARPUには大きな影響をもたらさない設計になっているというわけですね。
ところでライトユーザーはMVNOのSIMに乗り換えたほうがお得というお話をしましたが、この3キャリアの新料金プランの登場で、MVNO各社や楽天モバイルにおける20GB以下の低容量プランにも大きな動きが出てきました。その話は次回のこのコラムでご説明しましょう。
※引き続きこちらの記事もご覧ください。
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